グリーントランスフォーメーション(GX)とは?


政府は、2022年から「グリーントランスフォーメーション:GX」を推進しています。2023年の通常国会では、「GX推進法」・「GX脱炭素電源法」と略される2つの法律が可決されました。

そもそもGXとは何なのでしょうか。その経緯と内容について以下に整理します。

 

Ⅰ. GXとは何か?

 

政府は「産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する」戦略として、「グリーントランスフォーメーション(GX)」を推進しています[1],[2]

「GX」という用語は、2022年2月、経済産業省が「GXリーグ基本構想」を公表してから注目を集め始めました[3]。2050年カーボンニュートラル実現に向け、経済社会システムの変革と新しい市場の創造を牽引するために企業が参加する「GXリーグ」には、現在670を超える企業がメンバーとして参加しています[4],[5]。 岸田首相は、GX推進のため今後10年間に150兆円超の官民投資を実現することを表明しています。

2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針(以下、「基本方針」)[6]は、GX実行のための政策と今後10年のロードマップで構成されており[7]、GXは「戦後における産業・エネルギー政策の大転換を意味する」としています。基本方針には2つの柱があります。

GXを推進する法律

岸田内閣はGX基本方針の決定と同時期に、「GX推進法」と「GX脱炭素電源法(複数の法改正案を束ねたもの)」の2つの関連法案)を2023年の通常国会に提出し[8],[9]  、両法案とも可決されました。

 

Ⅱ. GX基本方針・関連法の主な論点

 

政府によるGX推進は、大規模投資と、それを支える財源の確保を図るものですが、専門家や各種団体などから、仕組みや内容について批判も挙がっています[13],[14],[15]。GXが推進する技術の中には、パリ協定で求められる気候目標や、電力部門を2035年までに脱炭素化するというG7合意などと整合しないものも含まれています。以下論点を整理します。

カーボンニュートラル目標やパリ協定との整合性が不透明

  • カーボンニュートラルの実現よりも産業振興に重点が置かれており、GXの推進や成立した法律による対策効果や削減見通しなどは示されていない。そのため、パリ協定に基づくNDC(国が決定する貢献)や日本のカーボンニュートラル目標との整合性は不透明であり、目標達成を担保するものとはなっていない。
  • 150兆円超の官民投資の対象には、再生可能エネルギーも火力も原子力も含まれ、推進する技術には、次世代原子力、水素・アンモニア混焼、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)などのさまざまな課題も指摘されているものが含まれている。これらの技術を利用する場合の費用対効果や削減効果は明らかにされておらず、妥当性を評価する根拠が不足している。

経済産業省に大きな権限を与える仕組み

  • 投資技術や財源確保の仕組みの決定判断、実行に経済産業省が大きな影響力を持つ制度設計になっている。例えば、GX推進法の下で定められる「GX移行推進戦略」の策定主体は経済産業省に限定されている。地球温暖化対策計画が、環境省と経済産業省の合同会合での議論を経て、内閣の「地球温暖化対策推進本部」で原案が取りまとめられるプロセスとは異なる。経済産業省は、推進戦略の策定に加え、GX推進機構の設立・運営も担うこととなり、影響力が集中する。
  • 2011年の福島第一原子力発電所の事故後、政府は、原子力規制組織を経済産業省から独立させ、「炉規法」で原発の運転期間を規定してきた。しかし、今回の法案可決で、運転期間は経済産業省所管の「電気事業法」で規定することになり、今後、経済産業省が原発の規制と推進の両方を行うこととなった。これにより原子力規制の独立性が損なわれている。

エネルギーの安定供給の手段の焦点が化石燃料や原子力に置かれている

  • 火力発電の継続的利用を前提に、水素・アンモニア混焼が推進されている。これらの混焼技術は、まだ確立しておらず高価である。加えて、2030年時点では排出削減効果はほとんど見込めず、それ以降の予測も難しいため、火力への混焼技術の推進は、結果的に火力発電所の運転期間延長につながる可能性が高い。
  • 2011年の福島第一原発事故以降の原子力政策が大きく方針転換され、60年を超えた原発の運転も可能になる。また、「次世代革新炉」の開発・建設に取り組む方針も明確にした。
  • 浮体式洋上風力については、導入目標を設定する方針が示されている。新たな目標が、「洋上風力ビジョン」(2020年発表)における洋上風力の目標(2040年30-45 GWの案件導入)[16]の内数にとどまらずより野心的な目標が設定されれば、浮体式洋上風力の導入拡大の見通しが立つ。

低水準でスピード感に欠けるカーボンプライシング導入計画

  • GX推進法で導入されるカーボンプライシングは、GX経済移行債の償還財源として導入される仕組みである。10年で20兆円という規模から、炭素価格は低い水準での設定が想定される。ある試算によれば1,500 円/t-CO2となるが[17]、これは主要各国に比べ低い水準である[18]

  • 有償オークションの導入時期は約10年後の2033年度に予定されており、気候変動対応へのスピード感に欠けている。

  • 化石燃料輸入事業者に対しては賦課金を課す予定である。賦課金は炭素税と異なり、国会の関与を必要としないため、カーボンプライシングの適正な仕組み(課税による削減効果や使途のあり方)について、公正な議論の確保に課題がある。
 

Ⅲ. 今後に向けて

 

以上の通り、「グリーントランスフォーメーション」は、政府の積極的な旗振りの下、日本特有の概念として官民一体で推進されています。新たな大規模投資を可能にする仕組みである一方、GX推進によってカーボンニュートラルが実現できるのかは定かでなく、まだ実証されていない技術の推進や、スピード感に欠けるカーボンプライシング手法が含まれています。

さらに政府は、自らが主導する「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」を通じ、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国でもGXの推進を計画しています。火力技術などを含むGX推進策が抱える課題がそのままアジア諸国に広がることの問題も指摘されており、ベトナムやインドネシアで進められている石炭からの公正な移行を目指す「公正なエネルギー移行パートナーシップ」(Just Energy Transition Partnership)の取り組みが後退するおそれがあります。

GX基本方針や関連法は、短期間のパブリックコメント実施や法案審議で方向付けがされてきました。今後、パリ協定や1.5度目標と整合性することを確かなものとするためには、法律の下で進められて行く対策や技術による削減効果、技術選択の妥当性、カーボンプライシングのあり方について客観的に検討し、市民の参加と十分な議論を通じて必要な制度設計や見直しを図っていくことが重要です。 

執筆: 平田仁子・渡辺千咲

 

[1] 内閣官房「GX実現に向けた基本方針」 2023.2.10
[2] 資源エネルギー庁ホームページ  2023.5.26
[3] 経済産業省「GXリーグ基本構想」 2022.2.1
[4] GXリーグ
[5] 経済産業省 「GXリーグ基本構想
[6] 内閣官房「GX実現に向けた基本方針」 2023.2.10
[7] 内閣官房「GX実現に向けた基本方針 参考資料」 2023.2.10
[8] 経済産業省 プレスリリース 2023.2.10
[9] 経済産業省 プレスリリース 2023.2.28.
[10] 正式名称は「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」
[11] 関連する法律は、「電気事業法」、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)」、「原子力基本法」、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)」および「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法)」。
[12] 経済産業省「法律案概要」 2023.2.28
[13] 日本弁護士連合会「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案についての会長声明」2023.3.3
[14] 日本弁護士連合会「GX実現に向けた基本方針及び脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案についての会長声明」2023.3.3
[15] 自然エネルギー財団「GX基本方針およびGX推進法案の閣議決定にあたって」2023.2.14
[16] 経済産業省 「洋上風力産業ビジョン (第1次)」2020.12.15
[17] 原子力市民委員会 資料、2023.3.20
[18] World Bank, “State and Trends of Carbon Pricing 2022” 2022.5.24

 

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