日本の主要企業10社の気候目標の透明性と環境統合性を評価したレポート
気候変動への緊急な対応が求められる中、日本でもこれまでに多数の企業がカーボンニュートラルを宣言しています。企業はどのような目標や対策を掲げているのでしょうか。また、その水準は、地球温暖化を1.5℃に抑制することと整合しているのでしょうか。
本レポートでは、ドイツに拠点を置く気候変動政策シンクタンクNewClimate Instituteが「Corporate Climate Responsibility Monitor 2023(CCRM2023)」のために開発した分析・評価手法[1] を用いて、日本の主要企業の気候目標や対策の透明性(tranparency)と環境統合性(integrity)*を明らかにすることと、企業によるオフセット計画の信頼性を精査することを目的に、企業の気候変動対策における以下の4つの主要な領域について評価を行いました。
- 排出量の把握と開示
- 排出削減目標の設定
- 排出削減対策
- 気候変動対策への貢献やオフセットを通じた責任
対象企業は、日本の多排出部門から、JERA ・J-POWER (電力)、 日本製鉄・JFE (鉄鋼)、 ENEOS (石油・ガス)、太平洋セメント (セメント)、三菱ケミカル (化学)、ANA (輸送サービス)、王子 (製紙・林業)、トヨタ(輸送機器製造)の10社。
これら10社の2020年度における温室効果ガス排出量(スコープ1・2)は、同年度における国内の全排出量の36%(4億1,414万tCO2)に相当し、日本全体のネットゼロの実現にも責任の大きい企業です。
評価結果は以下の通りです。
- 対象10社全ての環境統合性は「低い」に属する。
- 排出量の開示が不十分であり、気候変動への取組に対する第三者評価が制限されている。
- 10社の2030年目標および2050年ネットゼロ目標は、1.5℃目標達成に必要な野心にほど遠い。
- 対象企業の対策は、地球温暖化を1.5℃に抑えるために必要な変革を起こすには不十分である。
- 供給側、需要側ともに再生可能エネルギーへの移行が遅れている。
- オフセット計画の信憑性が問われている。
- 2030年に向けた重要な10年で、企業対策の可能性を引き出すためには、不十分な気候目標への対処が直ちに必要である。
執筆者コメント
プログラム・ディレクター 小俵大明のコメント
「日本では多くの企業が、2050年のネットゼロやカーボンニュートラルを宣言していますが、今回の調査結果により、主要企業の気候目標や気候変動対策のほぼ全てが、国際機関等が示す、パリ協定の1.5℃目標や2050年の世界全体ネットゼロと整合する指標を明確に下回っていることが明らかになりました。企業は、科学に基づく目標を設定し、早急に気候変動対策を進める必要があります。」
代表理事 平田仁子のコメント
「1.5 ℃目標の実現のために2030年までの対策強化が求められています。評価結果から、日本の企業が、より高い透明性と環境統合性を確保する必要性があることが明らかになりました。企業が自ら定めるネットゼロ目標に十分に責任を持って取り組むことに期待したいです。」
*透明性(transparency): 企業の取組を理解する上で必要な情報の開示、環境統合性(integrity):取組の質、信頼度、包括性
本件に関するお問い合わせ
Climate Integrate事務局
Email: contact@6-1-log.com
TEL: 03-6453-7570
[1] NewClimate Institute, Corporate climate responsibility: Guidance and assessment criteria for good practice corporate emission reduction and net-zero targets, February 13, 2023.