バークレー研究所の2035シナリオの実現のための提言
Climate Integrateは本日、「2035年電力システム脱炭素化への政策転換」(ダウンロード)を公表し、日本の電力部門の脱炭素化を実現するための政策提言を行いました。本レポートは、米国ローレンス・バークレー国立研究所 (以下バークレー研究所)による「2035年日本レポート: 電力脱炭素化に向けた戦略」(ダウンロード)と同時公表されました。
2035年の電力部門の脱炭素化は、ネットゼロ実現において重要なマイルストーンであり、昨年のG7サミットでも合意されました。日本でも発電電力量の約8割を化石燃料の輸入に依存する電源構成を脱し再生可能エネルギー(以下再エネ)の利用を拡大することは、電力コスト削減、エネルギー安全保障の強化、温室効果ガス排出削減の面から有益です。
バークレー研究所の「2035年日本レポート」は最新のモデルによる解析を行い、経済的な電力部門の再エネシフトの実現可能性を検討したものです。以下の概要の通り、再エネの割合を大きく増やすことで、新規に火力や原子力発電所を建設することなく日本で2035年までに脱炭素電力に舵を切ることが可能であることを示しています。
バークレー研究所の「2035年日本レポート: 電力脱炭素化に向けた戦略」概要
・太陽光発電、風力発電(特に洋上風力発電)、蓄電池技術のコスト低下トレンドにより、2035年にクリーンエネルギーが発電電力量に占める割合を9割まで高められる(「クリーンエネルギーシナリオ」)
・これにより、電力コストを6%削減し、液化天然ガス(LNG)と石炭の輸入依存をほぼ完全に解消し、電力部門からのCO2排出を劇的に削減できる
・LNG火力発電所の新設や石炭火力発電所の稼働がなくとも、電力システムの信頼性が確保される
・経済、環境、エネルギー安全保障における多大な便益を具体化するためには、2035年までにクリーンな電力を90%まで高める政府目標や、そうした目標に一致した再エネ導入目標などの強力な政策が必要となる
Climate Integrateは、バークレー研究所の「クリーンエネルギーシナリオ」に示される再エネシフトの実現に必要な政策を提言しています。
Climate Integrateレポート「2035年電力システム脱炭素化への政策転換」概要
バークレー研究所によるシナリオを実現するためには、政府として全体方針を大きく転換し、政策措置を大幅に強化・転換することが必要になる。提言集では、シナリオ実現に必要な、3つの「国家ビジョン」の要素と7つの「政策措置」を提示している。
国家ビジョン
1. 再エネ転換のグランドデザイン
2. 目標の強化と計画の見直し
3. 「公正な移行」の戦略策定
政策措置
1. 適正なカーボンプライシングの導入
2. 地域と共生する再エネの普及
3. 電力システムの柔軟性向上
4. 公正な競争に基づく電力市場や制度の再設計
5. 洋上風力拡大のための環境整備
6. 省エネ促進とエネルギー効率向上
7. エネルギー転換を後押しする財政措置
コメント
Climate Integrate 代表理事 平田仁子「バークレー研究所の「クリーンエネルギーシナリオ」では、日本の電力脱炭素化が、再生可能エネルギーの大幅普及によって実現可能であることが示されている。これは、日本が、アンモニアや水素混焼、原発の更新といった目下政府がGX(グリーントランスフォーメーション)で進めようとしている方向性とは大きく異なる。障壁は技術やコストではなく政策である。政策転換によって、明確なシグナルと十分なインセンティブや支援が図られれば、この道筋の実現に大きく近づくだろう。」
レポートリンク
バークレー研究所「2035年日本レポート: 電力脱炭素化に向けた戦略」
Climate Integrate 「2035年電力システム脱炭素化への政策転換」
・バークレー研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory)について
ローレンス・バークレー国立研究所は、1931年に設立された米国エネルギー省(DOE)の最初の国立研究所である。計算機科学、物理科学、地球環境科学、生命科学、エネルギー科学・技術の研究を行い、16名のノーベル賞受賞者を輩出している。
本研究チームは、世界の主要国を対象に、最新の再エネ・蓄電池のコストデータ、電力モデル、再エネ資源評価モデルを用い、再エネ主力電源化の実現可能性について研究を行ってきた。これまでに米国(2020年)、インド(2021年)、中国(2022年)の電力脱炭素化に関する研究結果を発表し、バイデン政権やモディ政権に報告され、政策立案に活用されてきた。本報告書は、一連の研究を通じて得られた方法論を活用し、世界第三位の経済大国で先進的な環境エネルギー技術を有し、世界の脱炭素化に大きな役割を果たすことが期待される日本を対象とした最新の研究である。
・Climate Integrateについて
気候を守るための政策転換と行動の加速をめざす、東京に拠点を置く独立系シンクタンク。2022年1月創立。
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